鳰かづきたる水へこみけり 長谷川櫂
「かづき」は「潜き」と書いて水に潜ること。今しがたまでその辺に浮いていた鳰が餌になる小魚をもとめて水中に潜ったのだ。水がへこんだように見えたのはほんの一瞬のこと、水面はたちまち平らになる。しかし、俳句を詠むものにとって、ほんのつかの間であっても強く印象付けられることがある。それがこの句の「へこみけり」であろう。切字「けり」は詠嘆の「けり」であり「発見」の「けり」である。「へこみけり」によって、鳰の潜水が波一つ立てない静かなものであったことが察しられる。(季語=鳰、季節=冬)